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妃川 螢先生アルルノベルス10冊記念企画!

『誑惑の檻−黒皇の花嫁−』妃川 螢先生10冊発売記念企画 妃川 螢 著/DUO BRAND 画
アルルノベルスで大人気を誇る、妃川 螢先生の最新刊『誑惑の檻−黒皇の花嫁−』が11月下旬に発売いたします。ファンの皆様に、ちょこっと先読み♪、美麗壁紙★をお届けいたします♪妃川 螢先生の麗しい世界を堪能してください♪

あらすじ
黒と赤が結ばれる時、真の皇が復活を遂げる。

凛はチャイナ・マフィアから身を隠しひっそりと生きてきた。雷雨の夜、突如襲われた凛を救ったのは、大富豪・嵩原だった。手厚い看護と慈しむような眼差しに癒されるが、救い出されたのではなく、罠にかけられたと知る。毎晩繰り返される陵辱行為。圧倒的な熱に犯され、嵩原の底知れぬ恐ろしさに触れた時、それは記憶の底にある、何かと符号して……。“そなたこそ黒の花嫁にふさわしい”凛の封印された秘密を言い当てる紳士。その正体は……。


ちょこっと読み♪
『誑惑の檻−黒皇の花嫁−』
2007.11.15UP

壁紙ダウンロード
2007.11.22UP     1024*768     800*600

妃川蛍先生からのコメント
こんにちは。妃川螢です。
祝10冊目記念企画、ありがとうございます!
節目の今作は、中国系黒社会を舞台に繰り広げられるハーレクイン・ラヴ。
ハードな描写もありますが、気丈な受けと受けに骨抜きにされた攻め、という基本妃川節はいつものとおりですので(笑)、マフィアものが苦手な方にもぜひご覧いただきたいです。
どうぞよろしくお願いします♪

妃川蛍先生の本
10
キャラクター紹介
●緑川 凛(みどりかわ りん)

神城友那

19歳。幼い頃、中国系黒社会から逃れ、母とともに日本の片田舎でひっそりと育つ。二年前母が他界し、現在は天涯孤独の身。突然の襲撃に怪我を負ったところを嵩原に助けられる。

●嵩原 壯一郎(たかはら そういちろう)

宮脇本俊

凛を保護した大富豪。凛を屋敷で匿うことに。漆黒のスリーピースを着こなす、謎の多い紳士。

●芳沢(よしざわ)

芳沢

嵩原家の執事。深い傷を負う凛を世話をしてくれる。だが、時折みせるその瞳は鋭く……。


 『誑惑の檻−黒皇の花嫁−』


  暗闇を裂くように煌めく雷光。
 重い雲間を走る放電と、激しい衝撃音とともに地へ叩きつけられる対地雷。青白い光が、灯りの消えた室内を、一瞬眩く照らし出す。
 そのたび、濃く浮かび上がる陰影。
 ガラスを流れ落ちていく雨水と、高い天井から垂らされたカーテンと、猫脚のカウチチェア。
 窓枠の影が絨毯敷きの床に映り込み、そこに広がっていく、黒い染み。
 雷鳴が轟いて、閃光が射し、モノクロだった世界に一瞬だけ色彩が戻る。それによって、床に広がる黒が、実は赤い色素を有していることが知れた。
 なぜだろう。
 自分はこの場にしっかりと両足で立っているはずなのに、五感が鈍く、視線が定まらない。目がまわる。耳が遠い。
 何かが、おかしい。
 幼心にも、自分自身が正常な状態ではないことが知れたが、それだけだった。
 五感を狂わせているのはたぶん、印画紙をばら撒いたかのように視覚に映り込んでくる大量の映像と情報。
 そして、身体の芯を凍らせる恐怖。
 血の海のなかに倒れている人間は、つい数時間前には、自分を膝に乗せ目尻に皺を刻んで、とりとめもない話を聞いてくれたやさしい人。
『巴…巴……?』
 掠れた声で、その人を呼んだ。
 途端、肺いっぱいに流れ込んでくる、生臭い潮の匂い。――――血の匂い。
 雷光が、照らし出す、血塗られた部屋。
 窓際に立つ、長身の影。
 手にした短刀から滴り落ちる赤い液体。
 稲妻が走る。
 一瞬の閃光が浮き上がらせたのは、黒衣の男。
 雷光に照らされてなお、闇色をした瞳、闇色の髪、闇色を纏った存在感。底なしの闇を感じさせる黒い世界が、そこにあった。
 闇色の瞳が、立ち竦む自分を映し込む。
 恐怖に四肢を震わせながらも、闇の奥の奥を見据えた。逃げようとは、思わなかった。
「行け」
 闇が指差したのは、外へとつづく扉。
 弾かれたように、自分は駆け出した。扉へと向かって。
 扉が、外から開けられる。
 隙間から差し込む光。
 その向こうには――――。
 音が消える。
 世界が真っ暗闇に包まれる。
 肺の奥に残る潮の匂いだけが、気持ち悪い。
 ビデオの停止ボタンを押したように、ブツリと途切れる映像。それは、原型をとどめないほどに刻まれ、失われ、コラージュされた記憶の断片。
 雷鳴轟く夏の夜。
 九歳の凛(りん)の脳に焼きつけられたそれは、闇との契約の記憶(証)だった。


 黒の花嫁≠ヘ、誓約の証。
 闇に染まった血を受け継ぐ者の、統べる力を持つ者の証。
 黒社会の支配者と、ともにあることを許された唯一の存在に与えられる、闇色に染まった永遠(とわ)の輝き――ブラック・ダイヤモンド。
 漆黒の金剛石に鮮血が滴り、真の姿を見せるとき、約束は成就される。
 黒と赤が結ばれる。
 それは、真の皇の復活のとき。


「かならず迎えに行く」と、その人は言った。

「ひとりになんてさせない」と言った自分に。



          1


 バシャバシャと、靴底が地面を蹴るたび、雨水が撥ねる。
 思えばいつも雨だ。雨と雷光。
 十年前のあの日も、酷い雨だった。窓の外を、稲妻が走っていた。
 雨に濡れつづけて、身体はすっかりと体温を失っている。限界は近い。動けるうちに活路を見出さなければ、先はない。
 夜空を覆う重く暗い雨雲が、ずぶぬれになった己を隠してくれる。ネオンもまばらな地方都市の繁華街の外れ、寂れた路地奥に駆け込んで、身を潜めた。
 それほど遠くない距離に、複数の足音。水飛沫の撥ねる音が、それらをやけに大きく響かせている。
 ―― 一、二……五人か?
 瞼を閉じ、神経を尖らせる。
 右手に短刀、懐には弾丸。
 逃げ出すときに持ち出せたのは、わずかな現金と、そのふたつだけ。
 左腕がズキズキと痛みを訴える。白いシャツの袖は真っ赤に染まっている。血は止まったようだが、傷が深いことは確認するまでもない。無理に動かせば、またすぐに傷口が開くだろう。
 ――なぜ今さら……。
 今になって、追っ手がかかるのか。
 この十年、見えない影に怯えつつではあっても、それなりに平穏な日々だった。もはや自分の存在など意味のないものとして忘れ去られたと思っていたのに。
『いたか!?』
 鼓膜に届いたのは、遠い記憶の彼方で聞き馴染んだ言語。けれどもう、忘れ去ったはずの過去だ。
 その過去に、追いつめられる。
 足音が近づく。
 ――包囲されたか。
 そのときになってはじめて、自分がかなり酷い貧血状態にあることに気づいた。でなければ、囲まれるまで待っていたりしない。
 ユラリ…と、暗闇のなか、立ち上がった。
『見つけたぞ!』
 ザッと、黒ずくめの男たちに囲まれた。
『緑川(みどりかわ)凛だな』
「……なぜ私を追うのです? 父も兄も母も死んだ。今さら私に何用があります?」
 男たちは答えない。
 何も知らされていないのかもしれない。
 日本語がわからないということはないはずだ。彼らはただのチンピラではない。訓練された兵士だ。幼い時分に、彼らと同様の訓練を受けた自分が容易に蹴散らせないほどの腕を持った、選ばれた者たちだ。
 そこに、追っ手の本気を感じ取る。同時に、目的が自分という存在を抹殺することではなく、生かして捕らえることであることも察した。
 理由はわからない。
 だが、だったらなおのこと、逃げ切らなくてはならない。
 闇の世界に、戻る気はないのだ。
 短刀を右手に。銃は、懐から出さなかった。
「道を、開けていただきます」
 短刀をかざし、男たちの間合いを見切って、包囲網を強行突破する。
 ザッと、眼前に血飛沫が飛び散った。殴りかかってこようとした男の腕を、短刀が切り裂いたのだ。
 だが、その程度で、怯み、道を開けてくれるような追っ手ではない。切り裂かれた傷などものともせず、男は襲いかかってくる。
 腹部に衝撃を感じた。背中が、コンクリート――ビルの外壁に叩きつけられた。痛みに呻く間もなく殺気を感じて、咄嗟に身を沈ませる。コンクリートの壁に拳を叩き込み呻く男の腹に、短刀の柄を捩り込んだ。大きな身体が、水飛沫を上げて地面に沈む。
 やっと、ひとり。
 今の衝撃で、左腕が完全に死んだ。感覚がない。傷が開いたのだろう。生暖かい液体が、土砂降りの雨に濡れてもなお、滴り落ちていくのを感じる。出血が多い証拠だ。
 雨がさらに酷くなって、視界もままならなくなる。
『小娘ひとりに梃子摺(てこず)りやがって……っ!』
 忌々しげに吐き捨てる声。
 なるほど、と霞みはじめた思考下で考える。
 やつらの情報網もたいしたことはないなと、内心嘲笑った。父の存命中なら考えられない。この十年あまりで、組織力が落ちているいい証拠だ。
 だが。
 そんな組織にさえ、抗う力を持たない不甲斐ない自分。
 ふたりに両脇をとられた。前後に残りのふたり。
 手にした短刀が男の首を掻き斬る前に、前に立つ男の拳が腹にめり込んだ。
「――……っ!!」
 ガクリと、膝から力が抜ける。それでも、握った短刀は放さない。
『悲鳴ひとつ零さねぇとは。怖ろしい女だ』
 口腔に、鉄錆味が広がる。
 非道な組織の手に落ちるくらいなら、いっそ……。
 考えて、懐に隠し持ったものに手を伸ばす。だがその前に、グラリと視界が回った。
『出血多量か?』
『失血死する前に、運び込むぞ! 死なせたらコトだ』
 男の手が、肩に伸ばされる。もはや目は開かない。雨音に掻き消されがちな音と気配だけでそれを感じ取る。
 ここまでかと、半ば覚悟した。
 意識を失くしたが最後、次に目覚めたときには、やつらの手中にあることは間違いない。
 だが、自分に向かって伸ばされていたはずの手の気配が不意に遠のいて、つづいてバシャバシャと、水飛沫の立つ音が四つ。それが、男たちが地面に倒れ込む音であることに気づいて、重くなった瞼を必死に開けた。
 気配がする。
 男たちのものとは別の気配が、一、二……三。いや、離れたところに、もっとたくさん。
 降り注ぐ雨のせいで視界がきかない。ぼんやりとした人影が網膜に映し出される。
 暗闇のなかに立つ、黒。
 闇に溶け込む黒い影が、じっと自分を見下ろしている。
 雷光が、一瞬あたりを照らした。
 黒衣の男。
「だ…れ……?」
 ――どこかで……。
 闇よりも濃い黒。
 ――どこかで見た……?
 頽(くずお)れていた身体が、とうとう地面に倒れ込む。
 黒い影に覆われる。
 世界が黒に埋め尽くされる。
 意識が途切れる直前、自身を包み込んだその気配に、全身が総毛立つのをたしかに感じた。

 地方都市郊外に建つ古惚けたアパートの一室で、緑川凛はひっそりと暮らしていた。
 母ひとり子ひとり。
 その母も一昨年に他界して、残された凛は、母が勤めていた町工場で、そのあとを受けるように事務の仕事に就いていた。
 この十年あまり、静かな日々だった。
 ひっそりと、ただ生を繋ぐ日々だった。
 それだけのことに大きな価値を見出し、日々が何気なく過ぎていくことに喜びを感じ、拭えない影に心の隅で怯えながらも、このまま何事もなく時が過ぎていくことをただ願っていた。
 平凡で善良な、どこにでもいる、ひとりの人間として。
 それは、先立った人の願いでもあった。
 セピアに色づく記憶のなかで、やさしく微笑む人の願いでもあるはずだった。
 ――巴巴(お父さん)……媽媽(お母さん)……っ!
 遠くで微笑む人に手を伸ばしても、届かない。
 ――桜凛(インリン)……っ!
 黒髪の少女は、振り返らない。
 夜空を走る放電と、冷たい雨。鼓膜を破るほどの雷鳴に、足が竦んだ。
 それは記憶の断片。
 切り離された記憶の欠片は繋がらない。正しく、記憶を織り成さない。
 記憶のコラージュの上に、黒い影が射す。
 ゾクリと背筋が震えて、深い場所に沈み込んでいた凛の意識は、唐突に覚醒へと向かった。


この続きは『誑惑の檻−黒皇の花嫁−』
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